M&Aの悪質な交渉相手の事例と信用できる取引先を見極める対応方法

どんなビジネスもトラブルが付き物ですが、例に漏れずM&Aも同様です。
特にM&Aのトラブルは交渉時、契約時、契約後の3つの段階で多く発生します。このうち契約時、契約後というのは書面を交わす関係から法的措置を講じることが可能な一方、交渉時は自らの裁量で対策が必要になります。
この記事ではM&Aにおける悪質な交渉相手の事例から、信用できる相手とそうでない相手を見極める方法を明記していきます。
M&Aの悪質な交渉相手の事例
既に検索などでご存じかもしれませんが、一般的には下記のような事例があります。
- 情報隠蔽: 重要な情報(粉飾など)を隠して買い手に提供しないなど
- 不適正価格: 市場や社会通念と照らし合わせても不当な価格を提示するなど
- 契約不履行: 合意した契約条件を履行しないなど
- 詐欺行為: 虚偽の情報を提供するなど
とはいえ、当然M&Aのプラットフォーム事業者や仲介業者との契約で規約に禁止行為として明記されているので、こんな目立つ悪質行為は早々に対処されます。
しかしそうでない悪質行為の代表として、交渉時における『規約でも法律でも対処できない範囲で行われる信頼を損なう行為』があります。
当サイト運営者が経験した悪質な交渉相手は下記の通りです。
返事・返答・返信が遅い
まず悪質な交渉相手の代表例がこの『返事・返答・返信が遅い』事案で、最も頻繁に出くわすはずです。
M&Aは言わばビジネスの話ですから、やり取りの際にはビジネスマナーも求められます。
相手方の質問に回答するにあたり、できればすぐ返事・返答・返信を行いたいところ。通常でも1日以内、遅くても3日、最悪でも1週間は原則でしょう。社内稟議や決裁など意思決定に時間がかかなるどの何らかの理由があって遅れるなら、いつまでにどの程度の返事ができるかを相手方に伝えるもの。
相手の時間を奪わないよう尽力するのはビジネス以前の問題で、ハッキリ言って社会人としての基礎の基礎です。それすらまともにできない交渉相手なら、信用度は低いと思ったほうが良いでしょう。
そして残念なことに、これができない交渉相手が大半を占めると思ってください。
対応方法:期限を区切り、すぐ返事ができるよう数字を準備する
まず交渉に際してやり取りの期限を区切りましょう。
相手の返事・返答・返信を確約させるなら『○○日までに回答をお願い致します。』、自分が情報を提示するなら『○○日までに回答致します。』、何か即答が難しい内容なら検討の時間をいただきたい旨や事情を伝えておくのです。
時間を奪われないよう、あるいは奪わないよう対応する。正直言ってビジネスマナー以前の人として大事なことです。
そして何度も書きますが、これができない交渉相手のほうが大半です。逆に言えば、これができるだけでも上位半分以上の信頼は獲得できると思っていただいて構いません。下世話な話、何らかのトラブルが起きた際も『こちらは適切に対応してました。社会通念を超えた連絡の遅延も起こしていません。』と言い張れますから。
また相手方に求められて情報を提示する場合に備え、予め関連する数字は全て手元に準備しておきましょう。業績の数字、各種データの数字、人や在庫の数などなど、聞かれたらすぐに答えられるよう予め用意しておくことです。
あまりに連絡が無い場合はプラットフォーム側に相談するしかありません。
日本語や文章としての言葉遣いがおかしい
これも結構な頻度で出くわしますが、日本語や文章としての言葉遣いがおかしい相手も悪質で質が劣る傾向があります。
例えば買収希望の概要欄であると想定して、下記の文章を読んでみてください。
当社は、人とのご縁を大事にし、これまで事業を、お蔭様で、継続する事ができております。M&Aによって、新規のビジネスを獲得し、ビジネスモデルも大事ですが、人柄を重視し、誠心誠意、対応をしていきたいと、考えております。ITのビジネスをしているため、ネット関連の事業として、ECサイト、アフェリエイト、アプリケーションの開発事業を、希望しています。
特に多いパターンを全て網羅してみましたが、上記の文章の問題点は下記の通りです。
- 句読点の位置がおかしい:上記はやたら多いパターンですが、逆に少ない(全然使わない)から読みにくい場合も
- 交渉にかかる文章が読みにくい:冒頭の一文『これまで事業を、お蔭様で、継続する事ができております』のように1つの文章のつながりがバラバラ
- 常用ではない漢字を使っている:『お蔭様』は常用外漢字(やや宗教寄り)であるほか、草かんむりのない『お陰様』のほうが読みやすく、できれば『おかげ様』と明記したい
- 業界人なのに業界用語を間違えている:『アフ"ェ"リエイト』ではなく『アフ"ィ"リエイト』
これを直すとこうです。
当社は人とのご縁を大事にし、おかげ様でこれまで事業を継続する事ができております。M&Aによって新規のビジネスを獲得していきたいと考えており、ビジネスモデルも大事ですが人柄を重視しています。ITのビジネスをしているため、ネット関連の事業としてECサイト、アフィリエイト、アプリケーションの開発事業を希望しています。
前の文章と後の文章、どちらが信用できますか?
対応方法:そもそも関わらない
この手の日本語がおかしい交渉相手は、そもそも関わらないほうが得策です。
傾向としては宗教、スピリチュアル、マルチ商法、反○○(ワクチンや原発)、自然派などの事業者あるいは信奉者といった特殊な思想信条を持っている可能性が高く、何らかのトラブルが起こるリスクがあります。
数字の話になった途端に怒り出したり必要な情報の提示を拒んだり、何か都合の悪い状況になると機嫌が損なわれて交渉が破綻しがちです。
正直、時間の無駄になりますし、余計なトラブルに巻き込まれないためにも関わらないのが最善です。もし売り手としてこうした買い手が交渉に来た場合、数字の話や必要な情報の提示を徹底して要求することで敢えて退かせるのも手です。
余談ですが、上記の文章であれば想定されるのは健康食品系のECサイト運営事業者です。取り扱っているのが消費者庁から注意喚起されるような代物で、薬機法に抵触するような文章(「ガンに効く」など)でそれらを販売している、くらいまでは想定できます。
そんな相手と交渉できますか?
交渉相手に威圧的な態度を取る
ビジネスの交渉の場で威圧的な態度を取った時点でアウトです。信用度は0なので、即刻打ち切りでいいでしょう。
今どき滅多にいませんが、当方が交渉していく中で1件発生しました。相手方の質問の意図が分からず『こういうことでしょうか?』と回答したところ、何が気に入らなかったのか突然怒りの文章を送り付けてきたのです。
仮にこちらに非があったとしても、ビジネスの交渉の場におけるたった数回のやり取りの最中、怒りを露わにした文章を相手に送り付けるなど言語道断。ただの非常識です。
そもそもこの手の交渉相手は、『自分だけが有利な何かを得たい』だけです。お金、情報、ビジネスモデルなどなど、価値あるものを自分だけが得たいという自己中心的な目的があるから、それを邪魔建てするような交渉をされるのを嫌がるんです。
先ほど怒りの文章を送り付けてきたと書きましたが、最初の文章からして日本語がおかしかったので案の定でした。
対応方法:交渉打ち切りと通報
要するに金や情報が目当てなだけなので、あからさまな相手であれば交渉を打ち切ることです。
またそれを判別するための一手間を加えるのも方法としては有効です。例えば『M&Aによってどのようなビジネスをされる予定ですか?』と質問し、『当方の質問に真摯に回答していただき、内容を精査の上で今後の交渉の可否を判断します。』と提示するのです。
金や情報が目当てなだけなら、この時点で連絡が来なくなります。経営理念やM&A後のビジネスの予定など、即答できないとおかしい質問をするのがベストです。その上で前述のように期限を区切り、真摯に対応できなければサッと打ち切る。これで余計な時間をかけなくて済みます。
なお、あまりに悪質な相手であればプラットフォーム側に通報しましょう。
情報を抜き取るための巧みな虚偽交渉
特に買い手側に多く一番厄介なんですが、まともな交渉であると思わせてほしい情報だけを聞きだしたら連絡が取れなくなる悪質な虚偽交渉をする相手もいます。
初手はとても丁寧だったり返事も早かったりするので信用できそうな雰囲気があるんですが、いざ案件の情報を開示してやり取りした途端、その後の連絡が途絶えてしまうのです。
案件の重要事項の交渉に入るときに秘密保持契約を結ぶとはいえ、違反した相手の行為を証明して責任を追及するなんて困難ですし余計な時間もお金もかかります。悪質な買い手はこれを知ってるんです。
とりわけマイクロM&Aでこの傾向が強く、プラットフォーム側が気軽さを謳って売り手と買い手を集めがちなため、いわば有象無象が集まりやすいのでこうなります。
対応方法:相手の情報を深堀りする
『交渉相手に威圧的な態度を取る』のセクターでも話しましたが、こちらもまともな相手かどうかを判別する一手間を加えるのが有効です。
情報が抜き取りたいだけの相手は、ビジネスそのものに興味はありません。なのでそれを逆手にとって『ビジネスに興味がないと答えられない質問』をして回答の質と時間を測ります。
例えば『○○という法律が施行されましたが、どのような影響があり、どう対処され、当案件ではどうされましたか(買い手なら『当案件を法律に鑑みてどうしていく予定ですか』)?』ですね。
先ほど薬機法の話をしましたが、そうした法律面への対応はそのビジネスに普段から従事していないと回答できません。情報が抜き取りたいだけの相手であれば、この時点で連絡がつかなくなるでしょう。
もし真っ当で真摯な回答がなされるようであれば、信用度は高いと言えます。
プラットフォームや仲介業者側が悪質な例も
また残念なことに、M&Aの仲介事業者が悪質な事例もあります。
M&Aにトラブルは付き物ですが、だからこそプラットフォーム側が責任をどのように果たすかも見極めが必要になります。
ありがちなのが『当事者間で~』とか『他の買い手候補を探して~』と責任を放棄するかのような対応。気持ちは分かるんですが、これでは安心してプラットフォームを利用できません。
対応方法:他社を利用する
あまり信用できない対応であれば、見限って他社を利用するのが手っ取り早いです。
M&Aの業界も競争の激しさからか、成約実績欲しさに売り手または買い手の意向を無視した無理なM&Aを強要してしまう、成約しなさそうな案件には消極的になるなどのトラブルも散見されます。
医療におけるセカンドオピニオンのように、場合によっては他社を活用するのもアリでしょう。
小さい案件でも真摯に対応してくれる事業者が望ましいです。
まとめ:悪質な交渉相手に大切なリソースを奪われないように
残念ながら悪質な交渉相手による被害は後を絶たず、大小様々なトラブルがM&Aの業界内で発生しています。
そんな悪質な交渉相手に大切な事業やお金を奪われないよう、ある程度は対策を施すべきです。
また自身がそうした悪質な交渉相手にならないよう、スピード感と準備を怠らないようにしましょう。
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